接近遭遇
英国SS
―男は、自らの犯した失敗のせいで、人の心臓を抉り取った―。
滑稽な話だ。
その瞬間はどんな気持ちがしたのだろうか。
恐怖?悔恨?
それでも、結局のところ、それは自業自得というもので―。
それはあまりに不思議な光景だった。
その話をした瞬間、ユウリの肩が小刻みに震え始める。いつもどこか遠くにいってしまいそうな黒瞳は、意思に突き動かされるかのように、ただひたすらに何かを感じとっていた。
そして、堰を切った涙が溢れ。
わけが解らない。大体、その男はもうこの世にいないはずのもので、ユウリにはなんの関わりもないはず、なのに。
―いったい、何がどうしちまったんだ・・・。
そのままを口にすると、泣き崩れたユウリを抱きしめたシモンが、かすかな怒りを交えてこちらを睨んでくる。
「見えないものが見えるのは、感受性の問題です―」
当人の悲しみを自分のことのように感じてしまうことの意味が、あなたに解りますか―。
―は?
滑稽なことに、思わず問い返したい気分だ。
解らない、いや、違う。そうではなく。
『知らない・・・?』
咄嗟に出てきた文句に、アシュレイはその場に立ち尽くす格好になってしまう。
魔術と呼ばれるものを習得した時、見えないものが見えるということがあるのは知っていた。けれど。
―そういうことって、どういうことなんだ・・・?
どういう表情をしたのか解らない。普段はそれすら計算のうちだったというのに。
シモンは溜息をつきそうな顔で言ってくる。
「もういいです」
ユウリはシモンの腕の中で、ようやく落ちついたところだった。
大丈夫かとシモンが声を掛け、その瞬間、不安定さがぴたりと収まっていくのがはっきりと見られた。
そんな中、ますます話を続けるタイミングを逃がす。
何がなんだか解らないまま、延々と時が過ぎていく。
あんなに救いようのないほどの感情が、たったそれだけのことで収まってしまうのか。そもそも、ベルジュという人間に、それほどの力が、いや、これが感受性というやつなのか。
気がつけば、ユウリとシモンを見比べてひどく困惑していた。
最初に手を伸ばそうとした手のほうが早かったら、今ユウリの隣にいるのが自分だったら―。
その思いを振り払うかように。
今、自分の顔に浮かんでいるであろうものに見当もつかないまま、打ち消した。