Day for NATURAL
英国SS
紅葉の季節。
寮の部屋の窓から夕日を眺めながら、ユウリはふとそんなことを思った。
―秋、かあ。
従兄弟の家のある京都は、都会ながら、古き良き日本の空気を感じられる場所である。紅葉の燃えるような、
それでいてどこか繊細な赤に染まった山を、幼いころは良く眺めていたものだ。
―あんまり奇麗だったから、時間が経つのを忘れて。
「その後、熱を出しちゃったんだよね・・・」
秋の終わりの頃は季節の変わり目で、油断をするとあまりありがたくない事態に陥ってしまう。
「それで、隆聖に散々言われて・・・」
でも、毎日時間を見つけてはふらりと様子を見に来ていたのを知っている。本人はそんなことはないと言い張
っていたのだが。
「それが結構―」
「結構、なんだって?」
「う、うわっっ!?」
突如背後から聞こえた声に、飛びあがる。心臓に悪いことこの上ない。
ユウリが半ば覚悟を決めて振り向くと、
「また、俺以外の人間のことを考えていたのか?」
少しふくれ面―に見えなくもないアシュレイの顔があった。
「な、何を言っているんですか!それより、どうやって入って来たんです!?」
「―別に。そこのドア以外に入るところなんてあるか?」
この人はいつもそうだ。いつも神出鬼没で、掴みどころがなくて、恐ろしくて・・・でも憎めなくて。
「―もういいです」
結局、自分が折れるしかないのだから。
はあ、と溜息をつきながら、せめてお茶くらいは、と仕舞ってある棚のほうに歩き出そうとして―
不意に腕を掴まれた。
「で?まだ話は終わっちゃいないんだが」
なんですか、と言いかけて、そういえば最初の一言が疑問形だったことに思い至る。
「そ、それは・・・少し、昔のことを思い出してました」
―どうせ、全然変わってない、とか言われるに決まっている・・・!
ほんの小さい頃の自分。まだまだ従兄弟の庇護にあった時を知られるのが何となく気恥ずかしくて、ユウリは
続けて言葉を重ねた。
「アシュレイは、そんなことはないんですか?」
「―ないね」
即答。
瞬間、はじけるように、魔術師のオーラが凄味を増す。あらゆるものに感情移入しやすいユウリには、余計に
眩しくて、反射的に身を強張らせる。
「―で?そいつはお貴族サマより大事というわけか」
「そんな・・・!」
誰が一番とか、そういうことではなくて。ただ、そこにいるのが自然だったから―。
「ふうん」
精一杯抵抗したつもりだったけれど、ないよりはましなくらいの言い訳。
それでも、アシュレイは何故か簡単に引き下がってしまった。
「・・・・・・・・・・・・。」
思わず肩の力の抜けたユウリに、アシュレイがぼそりと呟いた。
「そこで笑え」
―わ、笑えって、急に言われても・・・。
混乱していると、今度は1ミリくらい前に、にやにや笑う顔が突然現れて。
「なんなら笑わせてやろうか―」
― !?
「ふ、ふざけないでください!」
今度も精一杯抵抗したつもりだったけれど、相手は再び簡単に引き下がることはなかった。
「俺は、一時もお前のことを忘れたことはない」
「な、何を言って―」
「嬉しくないのか?」
「え・・・・」
何を言っているのだろう、この人は。
それだって、昔はともかく今となってみれば、ちゃんと当たり前の―。そうか、そういうことか。
「・・・と、嬉しいかもしれません」
なんとか言葉を繋ぐ。
「僕にとっては、なんていうか、今はみんなでいるのが当たり前ですから」
瞬間、アシュレイは面白くなさそうに顔を遠ざけていった。
「みんな、ね―」
―俺もその中の一人というわけか?・・・くだらない。
「だから、お前はまだまだおこちゃまなんだよ」
不満そうなユウリの顔を眺めながら言ってやった。
その「普通」がどれだけ異常なことなのか、自覚のかけらもないときている。一体どうやったらそうなるんだか。
それでも、ユウリがこちらを向いているのであれば、それも悪くない―。
頭の片隅でちらりとそんなことを思いつつ、アシュレイは、気を取り直しつつお茶を入れる準備をし始めたユウリ
の黒い絹のような髪を乱暴に掻き回した。