ひとかけらの―
英国SS
「フォーダム」
押し出すように、次のひとことを告げた。こんなところで、無様は失敗はできない。
「―フロム、セイヤーズ」
ユウリの目が大きく見開かれる。相変わらず、自分がどれだけ注目されているかということが、解っていないらしい。
問題は、どういうわけかシモンまでが不審そうな顔をしていることだ。さすがの彼をしてもこんなことは予想できなかったのか。漂ってくる微妙な、少し叩けは崩れてしまいそうな空気を、セイヤーズは敢えて無視した。
大勢の前で落ちつきのないところは見せられない。むしろこの場を盛り上げないことには。淡々と、やや緊張気味らしいユウリに自らプレゼントを渡した。
「ありがとう、セイヤーズ」
どこか無理をしているような、特別な響きでもなく、ごく普通の礼が返ってきた時、頭の中が真っ白になる。足もとのおぼつかない、ふわふわとした頼りない空間に漂っているイメージに瞬間的に放りこまれた。
自分でも、何をしたのか気付いていなかった。
ただ、頼りない上級生の驚いた顔が、間近にあって―。
シモンと香水の好みが似ているらしいと知った時は、天にものぼるくらいの気持ちだった。もっと近づきたくて、イベントという場所で当の本人ではなく、ユウリを選んだ、それは事実であり、あのパフォーパンスは、完全に好意的に受けとめられたらしい。誰もが、大いに場を盛り上げてくれたと、感謝の言葉や視線を送ってくる。
けれど、あれは、本当は。
―だから、僕は、何がしたかったんだ・・・。
就寝時間を過ぎた部屋は、しんと静まり返っていた。第三学年ともなれば、さすがに大騒ぎするようなことはしないのだが、それでも日々のささやかな喧騒が嘘のよう。
―僕は、ベルジュを尊敬していて、とても危なっかしいフォーダムは。
眠れない夜に、閉め切ったカーテンの細い隙間から流れこむ光の粒子は、ますます思考に都合の良い空間を作ってくれる。邪魔するものは何もない。
「―間が悪いな」
イベントの歓声と熱気は、思った以上に気分を落ちつけてくれたようだった。