今すぐにでも
お題SS
―知らないうちに力をつけている。
最も、自分の認識が追いつかないだけなのだろうか。
どことも知れない空間で、ずっと帰り道を探してウロウロしていたこともあるほど、従兄弟の力は目をみはるものがあった。
だから、小さいから、難しいことは解らないだろうと思い、ちょっと鍛えてやっているだけだ。
なのに彼の姉はあまり良い顔をしない。それどころかさりげなく割って入る。この家で、そんな反応をするのは、彼女だけ。
有望な、幸徳井家の跡取りに―。
「―隆聖さん」
相変わらず涙ぐんでいるユウリの肩を抱きながら、姉のセイラが厳しい眼差しを向けてくる。睨まれているなんてものではない。きっと自分がユウリで遊んでいるとでも思われているのじゃないだろうか。とんでもない。
「今日はユウリのお祝いの日ではなかったのですか?」
―ユウリに変なものをけしかけるのは、いい加減やめてください!
歳が近いせいか、遠慮なくものを言って来るのに、隆聖は目で微笑いながら答えた。
「ええ、そうですよ」
「じゃあ、どうしてユウリが泣いているのですか」
「いえ、怖いモノを見てしまったようなので」
逃げ出さなかっただけでも、結構見所があるから、満足である。
今日は、端午の節句。俗に言えば子供の日。せっかくなので、ユウリに代々伝わる兜人形を見せてやるつもりで、家に招いたのだった。しかし、古いものには何かが寄ってくるもので、兜の目が光ったように見えたのも災いし、たまたま入りこんでいた雑霊を見てユウリが泣いてしまった。
いつものように、悪戯をしたわけでは、断じてない。
ないのだが、どうにも自分は信用がないらしい。解ってはいるが。
だから余裕で返してやる。
「セイラはいつも怖いんやなあ。従兄弟なんやから、そない他人行儀にせんでもいいんと違うか?」
「問題をすりかえないでください!!」
歳のわりに才色兼備といわれる顔が二つ並んで、微妙に張り詰めた空気が流れる。せいいっぱい弟を守ろうと睨みつけるセイラと、どこか余裕の隆聖。
「・・・」
その時だった。ふと何かに引っ張られて、下を向く。
何時の間にか泣き止んでいたユウリが、隆聖の上着のすそをそっと掴んでいるのだった。
『僕、怒ってないから』
好奇心が強いくせに、目だけでものをいうのも得意な少年は、隆聖の黒い瞳をじっと見つめる。
弟の世話を焼いているだけあって面倒見が良く、親族の中でも年少の者たちからもとても慕われているセイラに対し、将来を期待され、強い霊力を誇る隆聖の周囲には、どんなに近くても、わずかな距離が存在した。
ユウリは、それを感じないのか、自分に妙になついてくる、ただ一人の者。しかも自分より優れた才能を持って。
とっさに手放したくない衝動にかられた。いや、今でも、そう思う。
セイラとの関係は、今でも、近からず、遠からず、壁一枚隔てたようなままである。
ユウリは自分に絶対的な信頼を置いている。意地悪だと思われているふしは見受けられるが、それでも揺るがないもの。
いっそ、今すぐにでも、壁をぶち壊せたら、どんなに楽だろうか。
久し振りに過去の事件を思い起こした夜。初夏はそろそろ終わり、本格的に夏が来ようとしている。
雅な都の夏は、今年も暑い。