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遠く、近く―違う色の風景・2―
2006年 英国アンソロジー収録
不意に現れた、影。
世界が凍りついてしまう温度を持ち合わせた、空気。
そんなものに出会ってしまったら、僕は一体どこを探せばいいのだろう―

「―シモン、まだいたの?」

「・・・え?」
シモンは思わず耳を疑った。気のせいに決まっている。ユウリがこんな冷たい物言いをするなんて。
なんとか動揺を押し隠しながら、さらに尋ねた。
「―ユウリ、僕はてっきり君が一緒にお茶を飲むつもりだと思ったのだけれど」
ここは、ユウリの部屋で、今朝、姉から珍しい品種の茶が送られてきたと嬉しそうに報告があって、そ れで、授業が終わった今、訪ねてきている。
間違いはないはずだ。
―顔になんて、出ていないだろうね・・・。
大丈夫、完璧なはずだ。小さい頃の英才教育は、特に興味があって受けたものでもなかったが、今はそ のことに感謝したいような気分になってくる。
こんなユウリは普通じゃない。絶対。
すると、
「―だからもう渡したよ。一緒に淹れ方もメモしておいたから。・・・気が散るから早く出ていってよ」
今日の課題は苦手なところなんだからさ。
黒瞳を半眼にして、まるでいつもの温度を感じない眼差し。こんなものは夢なのだと現実逃避したくなる。
それでも、シモンの生来の性格は、今を認めざるを得ない。
「ユウリ、一体どうしたのだい?」
「・・・・・・・・・・・・どうしたって、何が?」
微妙に長い沈黙の後、面倒くさそうに答えが返ってきた。それでもどうにか気を奮い立たせて続ける。
「何か悩み事とか、嫌なことでもあったのかい?」
「―別に」
短い一言。
「シモンこそ、こんなところで油売ってていいわけ?」
これが日常なら、ウラジーミルあたりが乗り移ってしまったかのようだ。
そう、これが普通なら―
「・・・普通、か」
もしかして、ユウリは怒っている?
その可能性に気付いて、シモンははっとした。
それなりに長い付き合いで、絆は固いものだと信じていて、多少の失言で壊れる中ではないという自信はあ るのだが。
目の前にいる、『普通じゃないユウリ』は、それだけで何か妙な説得力があった。
ふう、と溜息を吐き出す。どうやら、今は時期ではなさそう。
―今朝、珍しいお茶が手に入ったと息を弾ませて報告に来たところから、考えてみる必要がありそうだな・・・。
「解った。今日のところは出直すよ」
そう言って、部屋を出ようとしたその時。

「気が向いたら、付き合ってあげてもいいよ」

今まで一度もこちらを向かなかった顔が、ほんの少しだけずれていて。
黒い瞳がどことなく潤んでいるような気がして、思わず駆け寄りたくなったけれど、堪えてドアを開ける。

数センチの隙間は、遠く、近く―

▽▽▽

「え・・・・シモン」
「・・・のところ・・・てる・・・」
「うん、そうだよね」
ぼんやりと、すぐそばで話している声が耳にはいってくる。
シモン・ド・ベルジュは、ゆるゆるとつかの間の休息から目覚めた。

「ベルジュがうたた寝なんて珍しいね」
パスカルが苦笑しながらこちらを見ている。
「無理もちょっと考え物だね」
ルパートがおっとりと口を開き、
「シモン、疲れてるなら休まなくちゃ」
ユウリが心配そうに顔を覗きこんできた。
そういえば、このところ忙しくて無理がたたったかもしれない。
そこまで考えて、ようやく、今までのユウリは紛れもなく夢だったことに気がついた。
―夢、ねえ・・・
それにしては少々刺激的だ。
一方、仲間達は短い間をますます疲れのせいだと思ったのか、強制的に休養を取らせる算段を始めている。
「うーん、本当に危ないかも」
「なんならみんなに色々提案してみるけど?」
「じゃあ、早速―」

相変わらず、どこまでも普通な日常風景。いつもと同じ色の。

シモンは、ふう、と溜息をついて立ちあがる。
「そうだね。今日のところは休ませてもらおうかな」
それから、間を置かずにユウリにいいたいことを言ってしまうことにした。
「今朝言ってた珍しいお茶、ご馳走してくれるかい?」

たぶん、これは夢じゃない。

ユウリはすぐに頷いて、二人は並んで歩き出した。
まあ、このくらいは許されるだろう。

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サークル「東洋真珠のお姫さま」の英国アンソロジー(2006年夏コミ発行)に参加したお話その2。
ツンデレユウリ・シモン編。意外と理性的なシモンになっていました・・・アシュレイなんかところかまわず 落ち込みそうだと調子にのって書いたのですが(爆)
自信がある分、行動を振りかえる余裕があるのかもしれないですねえ。その点アシュレイは・・・はっ、何故か 寒気が・・・。
しかし、最新刊ではとうとうユウリに発信機(笑)をつけてしまいました・・・シモン。どうなることやら。もう このくらい可愛いものかもしれませんねー。