チェスゲーム
デスノートSS
「―チェックメイト」
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
私財を投じて作り上げた捜査本部のソファの前のテーブルに、チェスのセットが置いてある。
特に相手がいるわけでもなく、考えを整理するためとか、暇つぶしのために一人で手を動かすことに使
われていたが、ある日唐突に横槍が入った。
キラ事件の犯人と目論んでいる夜神月が初めてここに足を踏み入れた日のことだ。
私が一人チェスの駒を動かしているのを目に留めた彼が、自然な動作で相手側の駒を手に取ったのだ。
「月くんがキラなんじゃないですか?」
私は少しも躊躇わずに自分の考えを口にする。と同時に目の前のチェス盤に釘付けになってしまった。
テンポ良く動く駒を追いかける。
対する夜神月は、少しも表情を変えず―笑みすら浮かべながら言った。
「お前が死んだら僕がキラか―」
その間にも、駒は一定のリズムを刻み続けた。
手と口を同時に動かしながら、これが遊びなのか、犯人と対峙している時の攻防なのか、良く解らなくな
っていく。
―少し考えれば当たり前の話だ。
長らく・・・いや、もしかしたら物心のついた頃から同じレベルで渡り合える人間は存在しなかったのだから。
しかし、その時の私は、そんなことすら奇麗に忘れ、目の前の勝負に没頭していたらしい。
「―チェックメイト」
自信に満ちた夜神月の声がゲームの終わりを告げたと理解するまで、数秒の時を要した。
「・・・お見事です」
こぼれ出た言葉に、自分自身が一番驚いた。
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「というわけで月くん、チェスでもいかがですか?」
半日かけて行なった分析の結果、新たなキラの正体にかなり近づいた。
さくらテレビの関係者の中にその人物はいる。今はその資料を徹底的に集めている最中で、張り詰めていた
時間に余裕ができた。
一言でいえば手持ち無沙汰。
そんな時、唐突にLこと竜崎が声をかけてきたのだった。
何時の間にか現れたワタリが、ソファの前のテーブルにチェス盤を置く。
「・・・いきなりどうしたんだ?竜崎」
どちらかといえばいつも淡々と感情を滅多に表すことのない竜崎の声が、なんとなく興奮―というか、相当
なやる気に満ちているような気がして、僕は戸惑い気味に尋ねた。
「いいじゃないですか。どうせ今はすることがありません。それにこの先はまた忙しくなりますし」
かといって頭を使わないとボケてしまいます、などと言ってくる。
「竜崎がボケるなんて僕には考えられないけどなあ・・・」
何故か必死に理由を並べているように感じられる態度が可笑しくて、つい笑ってしまう。
すると竜崎は、やたらと真剣な目をこちらに向けてきて、
「笑い事ではありません―今度は負けませんからね」
―今度?・・・ああ、あの時か。
僕が初めてここに来た時だ。竜崎が一人でチェスをしているのを見て、つい手を出してしまい。
偶然勝ちを手にした。
だって、あの時は竜崎がどんな戦い方をするのか、そっちの方にばかり興味がいっていたし。
―大体、僕が勝ったって気づいたの、クィーンを取った後だったし・・・。
「そうだね。僕も負けないよ」
今度は純粋なゲームの真剣勝負。それも悪くない―むしろ面白そうだ。
―さて、お手並み拝見といきますか。
胸中で呟きながら、僕は出来る限り挑戦的な笑みを浮かべた。