嘘と真実-side:B-
デスノートSS
※アニメ25話ネタバレ注意。
雨に混じって、鐘の音が聞こえていた。
ワタリ―キルシュ・ワイミーに手を引かれ、養護施設ワイミーズハウスの前に立っていた時。
どこからか鳴り響く静かで荘厳な音は、子供心にまるで何かを祝福しているように思えた。
「鐘の音がする・・・」
ぽつりと呟いた声に、
「結婚式でしょうか―おめでたいことです」
そんな返事があった。
鐘の音が聞こえる。
ざあざあと天から降ってくる水の音に混じって。
ごおおん。ごおおん。
どこからか鳴り響く静かで荘厳な音は、まるで―。
―ダメですね。
なんだか、今の自分は普通の状態ではないのかもしれない。
ふと、記憶の奥に仕舞った過去を思い出して、雨の中に立ってみたくなった。
こんなところを月に見られたら、笑われそうだ。
そんなことを考えるなんて、やはりどうかしている。
誰にもに見つからないように、こっそりとキラ事件の記録を作っておいた。その上で、この数日間、
賭けに出た。
『13日以内に死刑になる囚人を使ってノートの効力を試す』
また総一郎あたりには反対されるかもしれないのだが、他に手段がない。真実は明かされなくては
いけない―正義の名のもとに。
だのに。
何故か、この状況を淋しいと感じている。
疑う姿勢を崩さない自分に本気で腹を立てていた月。
大学で出会った月とは明らかに違うはずなのに、弥海砂の部屋で殴り合っていた瞬間に、唐突に理
解できてしまったのだ。
どちらも間違いなく、『夜神月』であることに。
探偵・Lは確かに真実を受け取っていた。なのに―
―私は、最後まで嘘ばかりでした・・・
ことごとく機会を潰していった。ただ、殺人犯キラの正体に辿りつくために。
そして、もう後には戻れない―。
その声が聞こえたのは、本当に唐突な出来事だった。
「・・・・・・・で・・・・・だ」
音に掻き消されて良く聞こえない。
とっさに、なんですか?と手でジェスチャーをしながら聞き返した。
振り向いたその目線の先に、夜神月が立っていた。
建物の屋上にいる自分と、入り口にいる月とでは距離が遠すぎる。
「そんなところでなにをしてるんだ!」
一瞬、驚いたような顔をした月が、再び大声で聞き返してきた。
「・・・・・・・はい?」
確かに声は届いていたのに、返したものは、疑問だった。
一体、今、どんな顔をしているのだろう。
また、どうにかなっていそうなことを、考えた。
「何してるんだ竜崎」
月は結局ずぶぬれになる道を選んだらしい。確かに「今の」月に見えるのに、彼もどこかでリズム
が狂ったのだろうか。
それとも―
「鐘の音が・・・」
その先を思いつく前に、こぼれ出た旋律。
「―何も聞こえないぞ」
「鐘の音が・・・うるさくて聞こえないんですよ、結婚式ですかね・・・それとも」
葬送―
心の中に浮かんだ単語は声には出さなかった。
形にしたってどうなるわけでもない。もう未来はどちらかしかない―。
月のほうも、敢えて何も言わなかった。
「すみません。私いうことは、皆デタラメですので一言も信じないで下さい」
そう、デタラメ。嘘。それが、全て。どれが嘘か本当か、探り合ったところで、答えなどない。
「―そうだな竜崎、お前の言うことは大概デタラメだ。お前の言うことにつきあっていたらキリが
無い。それは僕が一番知ってる」
―今まで積み重ねてきたことは、全部、嘘と欺瞞。
どこまでも、一方通行な。
本当に「型どおり」な台詞。
「そのとおりです月くん。・・・でもそれはお互い様です」
違う。
本当はそうじゃない。
最後までなにも真実を明かさなかったのは・・・。
「生まれてから一度でも本当のことを言ったことがあるんですか?」
するりとこぼれ出た、後から付け加えた言葉。
―ああ、やはり今の私は普通じゃない。ありえない。
生まれてから何回本当のことを言ったかなんて、とっくに忘れてしまった。
探偵として数々の事件を解決してきても、何故か日常が曖昧で。
何か新しいことに興味を持っても、長続きするわけでもなく。
初めて『L』として表に立った「あの日」がスタートだった。
それでも。
「真実のみを口にして一生を終える人間はいないんじゃないか?それでも僕は、故意に人を傷つけ
る嘘は言わないよう心がけてきた―それが答えだ」
その言葉で終止符が打たれたと確信してしまった。
もう時間は動きだしてしまった。
―そう、言って欲しくなかった。・・・そう言うと、思っていました。
たとえ、私がたった一度だけ、真実を口にしたとしても―。
「みなさん・・・しにが・・・・・・・・・・」
乾いたスプーンの落ちる音。
世界がぐらりと揺れた。
視界が少しづつ傾いて。
この体が全部落ちてしまったら、全てが終わる―。
―淋しいですね・・・。もうすぐお別れです・・・本当に。
最後に楽しい時間が過ごせて良かった。
月くん―
かすかに見える視界に月が映った。
笑っている。勝ち誇った、終わりを告げる笑み。
――真実を、ありがとう。