嘘と真実-side:A-
デスノートSS
※アニメ25話ネタバレ注意。
叩きつけるようなどしゃぶりの雨が降っていた。
「雨か・・・」
なにもかもを洗い流すように。真っ白な地図に何かを描き出すように。
―この分じゃ、当分止みそうもないな。
心中でとりとめもないことを呟きつつ、戻ろうとした月の眼に、思いがけないものが映りこむ。
―竜崎・・・?
「そんなところで何をしてるんだ?」
するりと言葉がこぼれ出た。
ひどい雨の中立ち尽くしている姿は、そこだけ霧がかかったように見える。
儚さ。
唐突にそんな単語が浮かんだ。
この数日間の竜崎はやけに活発だった。何か最後のあがきでもしていたのだろうか。
何か、それでついに燃え尽きてしまったような―
― ・・・。何を考えているんだ、僕は。
そんな竜崎なんか見たくない?そんなバカなことがあるか。
振り切るように再び竜崎を見上げた。
何か言っているようだが、聞こえない。
手でジェスチャーをしてくる。
「そんなところでなにをしてるんだ!」
大声で言い直すと、やっと少し届いたのか、
「・・・はい?」
透き通るような笑顔につられて、雨の中に足を踏み出した。
「何してるんだ竜崎」
間近で見ると、いつもの竜崎のように見えた。
「鐘の音が・・・」
「・・・え?」
聞き返したことばが、果たして届いたのだろうか。
「―何も聞こえないぞ」
「鐘の音が・・・うるさくて聞こえないんですよ、結婚式ですかね・・・それとも」
葬送―
心の中に浮かんだ単語を即座に打ち消す。
形にしたってどうなるわけでもない。この男の未来は、もう決まっているんだ―。
竜崎のほうも、敢えて何も言わなかった。
「すみません。私いうことは、皆デタラメですので一言も信じないで下さい」
それが、全てだ。そうだ、その通りだ。
「―そうだな竜崎、お前の言うことは大概デタラメだ。お前の言うことにつきあっていたらキリが
無い。それは僕が一番知ってる」
だから僕もそう返す。
そこに何かを当てはめるとしたら、それがぴったりだ。どれが嘘か本当か。探り合ったところで、
答えなどない。
―今まで積み重ねてきたことは、全部、嘘と欺瞞。
「そのとおりです月くん。・・・でもそれはお互い様です」
竜崎もそれは理解していたらしい。
本当に「型どおり」な台詞。
けれど、その後の―
「生まれてから一度でも本当のことを言ったことがあるんですか?」
― !?
ざあざあとなり響く雑音が打ち消された。突然二人だけ空間に放り投げられたような感覚。
振り切ろうとしても、夜神月はその中で呆然と立ち尽くしていた。
何か新しいことを初めても、人並み以上にできた。
日常が退屈で。曖昧で。
いつのまにか完璧な優等生になっていて。
どこに真実があるかなんて少しも解らなくて。
初めて本当に目的ができた「あの日」が、スタートだったんだ。
「真実のみを口にして一生を終える人間はいないんじゃないか?それでも僕は、故意に人を傷つけ
る嘘は言わないよう心がけてきた―それが答えだ」
もう時間は動きだしてしまった。これで終わりだ。
僕は止まるわけにはいかないんだ、竜崎。
迷うことなど、ない。
たとえ、お前がたった一度だけ、真実を口にしたとしても―
データの消される機械的な音。
乾いたスプーンの落ちる音。
世界がぐらりと揺れた。
変な格好で座っている竜崎―Lが少しづつ傾いて。
もうやたらと纏わり付かれることもなく。
疑いの目をむけられることもなく。
全てが終わった。
これから僕の時間は加速していくだろう。
なのに。
なんだ?
どうして僕は呆然と突っ立ったまま動けないでいるんだ?
何故竜崎のほうへ歩きだそうとしているんだ?
『あの体が全部落ちてしまったら』何かが壊れると思っているんだ―。
とっさに、手を伸ばす。
ギリギリで竜崎の体が手の中に収まった。
「・・・・・・・・。」
ずしりと重いそれが、心の中を引っかき回すようだった。
こんなにも、こんなにも、―重い。
確実に死へと向かっているというのに。
竜崎のかすかに開いた瞳はこちらを見ていると解った。
それは、決して負けた悔しさなどではなく―
「淋しいですね・・・。もうすぐお別れです」
雨の中から戻った後の、二人の時間の最後の一言。
― ・・・。お前は・・・・・・・・!!
長くない時間の中で、僕はゆっくりと、笑みを浮かべた。
邪魔者は全て消えた。・・・僕の勝ちだ。
僕の中の、唯一の真実は、それだけだった。
・・・・・・・・・。