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扉の、むこう
デスノートSS
人の心には扉がある。開けなければ、見えない。
そんな当たり前のことが、これほどもどかしいと感じたのは、初めてだ―。

「―竜崎、まだいたのか」

冷たい、それこそ棒読みのような声音に、Lは手の中のものを取り落としそうになった。
耳を疑った。
今まで自分の中のものに何一つ疑問を持ったことすらない探偵が。
こんなにぐらぐらと揺れている。
死神という不可思議なものを事件の要素に持ち出された時は、その「たが」が少しだけ外れてしま ったのだが。
それとこれとは別だ。いやというほどはっきりと理解できる。

―顔に出ていたら、それこそ傑作ですね・・・。

落胆というより、それは絶望に近い感情だったから。
月に、キラでない「はず」の月にこんな冷たい物言いをされることが。
探偵としての立場を捨て切れず、疑いの言葉を向けたこともあった―だが、また、彼を信じたいと いう思いも同時に生まれていることを、Lは認めざるを得なかったのだ。

「月くんがキラであっては困る」「月くんがキラであって欲しい」

相反する想いは、どちらも本音。

それでも、月は理解してくれている―。

いつの間に、その願望が当たり前になってしまっていた。
相容れないものが生み出す矛盾。
いつか崩れて当然のものに、しがみ付いていた、自分・・・

―私は、思ったほど強くなかったようです・・・。

今日は自分の誕生日で。
どこからか―ワタリ以外にはあり得ないのだが―聞き出してきたのか、月が誕生日のプレゼントを 持って捜査本部にやってきた。
そこまでは良かった。良かったのだが―
偶然にも二人きりだった本部で、月は投げるように箱を自分に渡した後、一言も口を聞かない。
照れているのか、と思ったので、何とはなしに話しかけてみた。
その答えが、先ほどのセリフ。咄嗟に、何と返していいのか解らなくなった。
ここは捜査本部で、私の日本での滞在先でもあります、それでいいのだろうか。―普通なら。

もやもやとしたまま、時間が経っていく。
その沈黙を破ったのは意外にも月のほうだった。

「・・・ああ。そういえば、竜崎はずっとここに居るんだったな。じゃあ、僕の用は終わったから、 今日はこれで帰るよ」

「月くん―!」
咄嗟に腕を掴んだ。1度も上がらない声の温度。それでも、どこかに希望を見出していたかった。 外聞などどうでもいい、今は、ただ―

離れて、欲しくないんです。
そんな物言いをするくせに、何故お祝いなど・・・・・・・・・!

ありったけの力を込めてしがみついた。想いをさらけだすように。今は、今だけは、少しでも―

月は、痛そうに顔をしかめていたが、不意に横を向き、

「・・・・・・・・・・・二度目がないとは、言わないけどね」

「・・・え・・・?」



「―崎、竜崎」
体がぐらぐらと揺れている。いや、揺らされているのだろうか。
ぼうっと事実を確認しながら、Lはつかの間の夢から目覚めた。
「月、くん・・・?」
目の前には困り果てた月の顔があった。けれど目は笑っている。
「気持ち良さそうなところ悪いけど、僕は椅子の上で寝るのは慣れてないんだ」
これもあることだし、と、繋がれた手錠を持ち上げてみせる。
いつもの、いや、少なくとも「今」の月だ。
―夢、ですか・・・。
ほうっ、と溜息をつくとLは椅子から立ちあがった。
「すみません。さすがに少し疲れたようです」
「竜崎は熱心なのはいいが、少しは休まないとな」
後ろで総一郎が苦笑いしている。
月がヨツバを突き止めて、捜査が少しは進んだからだろうか。自分でも驚くくらい「やる気」にな っていたことに、いまさらながらLは気付いた。
―願望。
あれは夢だったけれど。
本当の願望はそれこそどこにあるのだろう。


誕生日。特別か、そうでないのか解らない、そんな日を月に祝ってもらう。
夢の中の月と自分は、手錠で繋がっていなかった。

―そんな日を、私は望んでいるのでしょうか・・・。

「行きましょうか。月くん」
それはこっちのセリフだ、とすぐさま返ってきた言葉を聞きながら、どこへともなく、問いかけた。

人の心には扉がある。開けなければ、見えない。
自らの心すら決められない人間に、鍵を開けることはできるのだろうか。
どんなに知りたいと思っても、その先に行くのが怖い。
それでも、真実は、向こうからやってくるのだろうか―。


扉は、鍵は、もう、すぐ、そこに―。


HAPPY BARTHDAY FOR YOU............L.