恋心
デスノートSS
「ん〜っ、やっぱり淋しいーーーっ」
モデルの仕事を終えたミサが帰宅してから、30分ほどたっただろうか。
ベッドの上に転がったまま、ばたばたと手足を動かしているミサは、言葉どおり全身で感情を表し
ていた。
「―はあ。あんな約束するんじゃなかった〜。ホントは毎日でも会いたいのに!」
―せっかくデスノートをあげたのに、自分のために使わなくてもいいのか?
キラに会いたいというミサに告げた言葉がちらりとレムの頭をかすめた。それに対して、ミサは、
自分のために使っているときっぱりと告げたのだった。
―ミサはそれで幸せなのか?
そんな問いを発したとして、彼女は満面の笑みでこう答えるのだろう。
『うん、私、今すごく幸せだよ、レム』
人間は醜い。それが率直な感想だ。
ジェラスが恋した人間の寿命を迎える日に、何となく彼のもとにいたのも、そういう感情が良く解
らなかった―純粋に、というのも変だが、興味を持ったからだ。
少女が夜に帰り道を歩いていて。その後ろからストーカーが現れて―。
ジェラスが制止も聞かずにストーカーの名前をノートに書き、灰になって消えていった。
後には彼のデスノートだけが残った。
人間界では、少女―ミサが驚きと恐怖のないまぜになった表情でその場に座り込んでいる。
彼女の寿命は延長された。見守る者はもういない。それなら―
レムはジェラスの落としたノートを拾いあげた。ジェラスがストーカーの名前を記したページがそ
のまま開いている。数秒それを見詰めた後、ノートを閉じた。
ミサはようやくのろのろと歩き出すところだった。
そして―
今、こうしてレムはミサの側にいる。言うなれば意地、気まぐれ。見守る者がもういないのなら、
側にいるのも悪くないと思った。
人間は、醜い。だが、死神が愛した者なら、何か違うものがあるのではないか・・・、というらし
くない期待。
ミサは相変わらず枕に顔を埋めたまま、ぶつぶつと呟いている。
約束がとれたのは嬉しいけど、でもでもでも。
完全に恋する女の子である。
―しかし、その相手はどう甘く見ても信用できる人物ではない。
レムは確信している。そもそもあいつ―夜神月に恋愛感情などかけらもあるものか。最悪、ミサは
利用されて殺されるだろう。
だから、あんなことを口走ってしまった。
『ミサを殺すようなことをすれば、私が私のノートにお前の名前を書いてお前を殺す』
それで自分が死ぬ。それでも構わない。
その時の夜神月は、本気かこの死神、と言いたげな顔だった。本当のところは、自分でも良く解ら
ないので答えようがない。
ただ、醜い人間の中でも、恋する気持ちだけは、燦然と光輝いていた。
利用されるだけでもいい、不要になったら殺せばいい、そう叫んだミサの姿が、不意にジェラスと
重なって見えた。
死神が滅多に知り得ない感情。それを唯一、知っていた仲間。
その答えが、今、目の前にあるような気がして―。
―今のミサは、幸せそうだ。
それは事実だ。でも、本当にそれで幸せなのだろうか・・・。
ふう、とレムは溜息をつく。本当に私は思った以上にミサに肩入れしているらしい。
人間に幸せになって欲しい、なんて。そんなことを考えるようになったとは。
その時、ベッドで、ばたん、と音がした。ミサが勢いよく立ち上がったところだった。
「よし、決めた!いきなり会いにいって驚かしちゃえ!!」
あの悪魔のような人間相手にそんなことを思いつくのは、ミサくらいのものだろう。
「・・・色々まずくはないのか?」
口を挟むと、ミサはにっこり笑って言った。
「だって、世の中より月が好きなんだもん。―それってダメかな?」
「・・・いや」
眩しい笑顔に、それ以上の答えは出なかった。